永住許可制度の適正化について
入管難民法改正案では、税金や社会保険料を故意に支払わない場合のほか、住居侵入や傷害など一定の罪を犯した場合に永住許可を取り消せる規定を新設することとしました。
ここでは、新設される規定についてみていきたいと思います。
永住許可制度適正化の趣旨は?
○ 「永住者」の在留資格は、一定の要件(※)を満たすと認められる場合に許可される在留資格
その特徴として、活動・在留期間に制限がない
(※)素行善良・独立生計・日本国の利益に合致(10年以上の在留、公的義務の履行など)
○ 永住許可後には在留審査(在留期間の更新など)がないことから、永住許可時には満たしていた要件を許可後に満た
さなくなるような、悪質な場合が一部ある
○ 在留状況が良好と評価できない一部の悪質な永住者に永住許可を認め続けると、適切に在留している大多数の永住者
への不当な偏見につながるおそれがあることから、このような場合に対応する措置を設けることとしたもの
永住許可制度適正化の概要
永住許可取消しになる要件
現行入管法では、新住居地の届出をしなかった場合や虚偽の住居地を届け出た場合、不正の手段等により永住許可を受けた場合は、「永住者」の在留資格が取り消されることがあります。
また、永住者であっても、1年を超える実刑に処せられた場合や薬物事犯により有罪の判決を受けた場合などは、退去強制されることがあります。
これが今回、改正法により、故意に税金や社会保険料の未納や滞納を繰り返した場合や、窃盗などの罪で1年以下の懲役や禁錮になった場合は永住許可を取り消すか、ほかの資格に変更できるように見直されます。
永住許可制度の適正化に関するQ&A
出入国在留管理庁のホームページ公開されている永住許可制度の適正化に関するQ&Aを見てみましょう。
そもそも「永住者」とはどのような在留資格?帰化との違いは?
「永住者」は、入管法上の在留資格の一つです。
他の在留資格をもって在留する外国人には、行うことができる活動や在留期間に制限がありますが、永住者はこれらの制限がありません。
そのため、永住者は、他の在留資格をもって在留する外国人と異なり、在留期間の更新といった在留審査の手続を受けることはなくなりますが、在留資格の取消制度や退去強制制度等の入管法に基づく在留管理の対象とされています。
なお、特別永住者は、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国の管理に関する特例法に基づく地位であり、今回の改正の対象ではありません。
帰化とは、外国人が、法務大臣の許可を得て、日本国籍を取得することをいいます。
帰化した場合には、入管法に基づく在留管理の対象とはされなくなります。
永住許可を受けるためには、どのような要件が必要か?
永住許可を受けるためには、現行入管法上、原則として、
(1)素行が善良であること
(2)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
(3)その者の永住が日本国の利益に合すること
という要件を満たす必要があります。
永住者の要件を満たさなくなったとしても永住者として認めておくべきではないか?
現行入管法上、永住許可を受けるためには、その者の永住が日本国の利益に合することなどが要件とされており、その具体的な内容としては、納税義務等の公的義務を適正に履行していることなどとされています。
そして、「永住者」の在留資格に活動や在留期間の制限がないのは、永住許可を受けた者が、許可後も公的義務を適正に履行していることなどの要件を満たし続けていることが想定されているためです。
このような永住許可制度の趣旨からすれば、永住許可を受けた後に故意に公的義務を適正に履行していないなど、要件を満たさなくなった者に対して、引き続き活動や在留期間に制限がない「永住者」の在留資格を認め続けることは相当ではないと考えています。
税金や社会保険料の未納や滞納がある場合、日本人と同様に督促や差押えをすれば十分でないか?
永住者については、日本で生活する上で最低限必要なルールを遵守することが見込まれる者として永住許可を受けているところ、今回の措置は、公的義務を適正に履行せず、在留状況が良好とは評価できないような場合に適切な在留管理を行うことを目的とするものであって、過剰な措置であるとは考えていません。
永住許可に新たな要件が加えられ、許可の要件が厳しくなるのか?
今回の改正は、新たな永住許可の要件を加えるものではなく、許可の要件を厳しくするものでもありません。
病気や失業などで支払ができない場合にも、在留資格が取り消されるか?
支払うべき公租公課(租税、社会保険料など)があることを知っており、支払能力があるにもかかわらず、公租公課の支払をしない場合に取消しを想定しています。
一方で、病気や失業など、本人に落ち度はなく、やむを得ず公租公課の支払ができないような場合は、在留資格を取り消すことは想定していません。
取消事由に該当するとしても、取消しなどするかどうかは、不払に至った経緯や督促等に対する永住者の対応状況など個別具体的な事情に応じて判断することとなります。
新設された取消事由に該当した場合、必ず在留資格が取り消されるのか?
今回の改正では、取消事由に該当する場合であっても、直ちに在留資格を取り消して出国させるのではなく、当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合(※)を除き、法務大臣が職権で永住者以外の在留資格への変更を許可することとしています。
(※)「当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合」とは、例えば、今後も公租公課の支払をする意思がないことが明らかな場合や犯罪傾向が進んでいる場合を想定しています。
在留資格を変更する場合に、具体的にどのような在留資格とするかは、個々の外国人のその時の在留状況や活動状況に鑑み、引き続き本邦に在留するに当たって最適な在留資格を付与することとなりますが、多くの場合、「定住者」の在留資格を付与することとなると考えています。
在留資格が変更された後、再度、永住許可を受けることはできるか?
今回の改正は、永住許可の申請手続を変更するものではないため、「定住者」などの在留資格に変更された場合であっても、その後、公的義務が適正に履行されていることなどが確認できれば、再度、永住許可を受けることが可能です。
「永住者」の取消しや「永住者」以外に変更された場合、その配偶者や子どもの在留資格はどうなるか?
在留資格の取消し又は変更の対象となるのは、在留資格取消事由に該当する者だけであり、当該対象者の家族であることを理由として、在留資格の取消し又は「永住者」以外の在留資格への変更の対象となるわけではありません。
そのため、永住者の子の在留資格が「永住者」、「永住者の配偶者等」である場合、その在留資格に影響はありません。
また、配偶者の在留資格が「永住者」の場合もその在留資格に影響はありませんが、「永住者の配偶者等」の場合は、「定住者」などの在留資格に変更していただくことになります。
この他にも出入国在留管理庁のホームページにQ&Aが掲載されていますので、気になる方は確認してみてください。